大阪高等裁判所 昭和28年(う)197号 判決
しかし原判決挙示の証拠によると、原判示第三の(5)の外形事実及び(4)の事実はすべて認めうるところであり、ことに右(5)については、(一)被告人が植田助治の投げつけた革鞄を拾つて逃げようとしたところ、同人から「強盗だ強盗だ」と連呼しながら追いかけられたため拳銃を空に向けて一発威嚇発射したのに依然追いかけてくるのみならず他に数人追いかけてくる気配が感じられたので、追いかけてくる植田の方に拳銃口を向けて二〇米位の距離からさらに一発発射した結果、その拳銃弾が同人の下腹部に命中したこと、(二)被告人は拳銃弾が人に命中した場合あたり場所によつては死ぬかも知れぬということは一般的には熟知していたことがそれぞれ窺われるのである。
そもそも他人に対しこのような至近距離から拳銃を発射した以上拳銃の一般的性能にてらし特別事情のないかぎり、対手人に拳銃弾が命中し死亡させるかも知れぬという程度の認識があつたものと推認されても致し方ない筋合であつて、かゝる未必的な認識もまた刑法上殺人罪の主観的要件たるいわゆる故意に外ならないのである。ところで本件においては被告人において拳銃弾が被害者に特に命中しないように避けて発射したと思われる形跡は少しもないし、さらに所論のごとく、(一)十米以上の距離になると標的に対する命中率が低下するということや、(二)発射弾が唯一発であり、(三)被告人の意図が被害者に威嚇を加えて逃走するにあり、(四)当時見透し不十分な夕刻であつて、(五)特に狙いを定めないで走りながら発射したというような事柄は何ら右殺害の故意の存在と両立し得ないことではない。